朝鮮人労働者の像を訪ねて
神戸電鉄朝鮮人労働者の像を訪ねて 弁護士上山勤
2019年11月、神戸市兵庫区にある標記の像を訪問した。JR神戸駅から7番のバスにのって熊の橋で下車。西へ歩いて10分程度のところにある会下山公園の一角にひっそりと立っていた。徴用工問題で日韓の関係がギクシャクしている。気になってネットを覗くと、一年前の画像であったが草ぼうぼうの中に後ろ向きの像があった。当日、足が悪い僕は休みながらやっと現地へ行ったが、きちんと草刈りもされていて、どなたかがペットボトルの水を供えていた。
台座には、神戸電鉄敷設工事朝鮮人労働者の像と刻印されている。上半身裸の労働者がツルハシを振り上げている。台座の裏を見ると、神戸有馬電鉄、三木電鉄敷設工事で下記の13名を追悼するとともに、両民族の永遠の友好と親善を育むために建立した、とあった。13名の氏名と年齢、そしてなくなった場所が書かれている。24歳から47歳までの人たち。逆算すると多くの人が1800年代の生まれ。つまり、韓国が日本に併合される前に生まれた人たちで、少なくとも朝鮮半島の地で皆が育っている。無理やり日本国民とされたにしても、生まれ故郷を遠く離れて異郷の地で不運な死を遂げた人たちの気持ちを考えると無念の思いが察せられ、胸が詰まった。
国民として半島から徴用したのだから、どこの誰を連れてきたのかは記録があるはずなのに、完全な記録は発見されていない。その一部と思われる「厚労省名簿」(朝鮮人労務者に関する調査)が1993年に存在が明らかになり、全容の一部が判明したが、兵庫県だけで13000名を超える名簿のようだ。意識ある方達の努力によって、厚労省の名簿のほかに、直接企業に問い合わせをして記録の提出を求めるなどの調査が続けられている。兵庫県で言えば、軍需工場・港湾労働・土木建設などの仕事に従事していた。ある資料によれば、川崎重工艦船工場などは5685名の労働者の賃金は未払いのままであり、供託もされないまま中に浮いているようだ。内訳は社内預金が506万円超、未払い給与が3338万円超である(現在の貨幣価値だと極めて多額となる)。東京法務局などに供託をした企業も存在する。
安倍政府は請求権協定でもって、個人の請求権も解決済みだと、繰り返している。しかし、果たして個人の権利を他人である国家が放棄できるのか。法律家の目からすれば強い疑問がわく。実体的な請求権を他人が奪うことなどできない。異国の地で亡くなったり、給与や預金の支払いを受けないまま帰国した朝鮮の人たちの気持ちを考える時、このままで良いとは思えない。