労組事務所退去を求めた枚方市は不当労働行為(弁護士河村学)
労働組合事務所退去を求めた枚方市の行為は不当労働行為 ~枚方市不当労働行為事件~
弁護士 河村 学
大阪府枚方市(大阪維新の会公認で当選した伏見隆市長)で、市当局が、市職員で構成する労働組合に対し、その組合事務所の自主的退去を通告するという事件がありました。しかも、労働組合がどうして明渡しを求めるのか、どういう根拠に基づくのかなどの説明と協議を求める団体交渉申し入れについては、「地公法(地方公務員法)の趣旨に照らし」てという理由でこれを拒否するというものでした。
枚方市の行為は、枚方市と労働組合との交渉、枚方市の許可のもと、何十年も使用してきた組合事務所について一方的に退去を通告し、その説明・協議を求める団体交渉には応じないという労働者・労働組合の権利を踏みにじる極めて強権的な行為でした。また、枚方市が通告の際に理由としたのは、組合が、組合ニュースに、安倍政権や大阪維新の会など「政権や特定政党への批判的な記事」を掲載したことが、組合事務所の使用許可条件に違反するというもので、憲法でも認められている組合の政治的表現そのものを不利益を与える根拠にするものでした。しかも、実際には、市当局の意に沿うかどうかで扱いも異なる露骨なものでした。
労働組合の活動やニュースの内容に直接干渉し、それが功を奏しないからといって労働組合に組合事務所追い出しという大打撃を与える、このような枚方市の無法な行為に対して、労働組合は、これが不当労働行為にあたるとして救済申立てを行いました。そして、申立てを受けた大阪府労働委員会は、組合の主張を認め、枚方市の行為を不当労働行為に該当するとし、枚方市に対し、①労働組合と団体交渉に応じること、②伏見枚方市長が、労働組合に対し、枚方市が組合事務所の明渡しを求め、また、団体交渉を拒否したことにつき、「今後、このような行為を繰り返さないようにいたします」と誓約する文書の手交を命じました(2020年11月30日付)。
その後、枚方市はこれを不服として命令の取消訴訟を提起していましたが、大阪地裁(2022年9月7日)に引き続き、今般、大阪高裁でも枚方市の請求は棄却され(2023年6月16日)、枚方市の敗訴が確定しました。
公正・中立でなければならない地方自治体が、率先して違法行為を行うというのは本当にみっともないことで、恥ずべきことです。その違法行為が、市長の党派的立場を守るために行われていたのであれば、なおさらです。
民主主義は、自由な言論の上に成り立つものであり、また、憲法が保障する労働者・労働組合の権利は、政治的活動も含め幅広い自由な活動が保障されてこそ守られるものです。自らの権力を利用して異論を封じようとする政治は、真実を知られることを恐れ、市民・労働者の生活や権利が現在の政治によって抑圧されていることを隠すために行われるものといえるでしょう。民主主義のためには、何よりも自由であることと、少数者・社会的弱者の活動が保護され、その声が届く社会が求められます。