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介護施設での事故について(弁護士上山勤)

2025-02-10

介護施設での事故について

 

弁護士 上山勤

 

1. 現在、約690万人の方が要介護(要支援)認定を受け、介護を必要とする高齢者を支える制度として介護保険制度は定着しています。介護保険への加入は40歳以上の国民の義務とされていて原則、介護保険料の支払いが強制される仕組みとなっています。単純な任意の保険関係ではなく、システム自体が国家の装置で、例えば、どれだけの人員や費用を投入するかも基本的に国が政省令や通知等で(施設の人員・設備・運営基準・介護報酬など)を定めています。施設の環境に関し、従業員の人数は最低限が規制され合理化には限度がある。介護報酬は法定されていて(24年度は切り下げられた)、現実には、赤字になるギリギリのところで、介護事業を回しているのが実情だと言われています。

従って、介護施設で事故が発生したような場合、純粋に民法上の不法行為や契約関係(債務不履行)の問題だけでは割り切れない側面があるのです。その点で法的な過失があるかないか、といった議論だけでは表面的な考察に陥る危険があります。

2.  昨年は介護保険制度が始まって以来、介護施設の倒産件数が過去最大となったと報じられています。介護事業者全体の倒産や休廃業・解散は昨年、過去最多の784社と報じられています。中でも全体の7割近く(67.5%)を占めた訪問介護の廃業は、自民・公明政府が24年報酬改定で基本報酬を2~3%引き下げたこともあり、急増でした。そうした中で新潟県村上市は、報酬引き下げによる減収分を昨年4月の改定時にさかのぼって独自に補助するそうです(同趣旨の自治体補助は全国初)。

私たちは誰もが歳をとり、将来お世話になる可能性の高い介護施設。老人は増える  一方なのに施設は倒産・閉鎖では困ります。私たちの未来をどうしてくれる、という思いがします。もっと必要な財政出動を行うべきでしょう。 こんな逼迫した状況のもとで、介護の現場で利用者の事故が起きています。厚生労働省が2023年度に行った介護保険事業状況報告によると、介護事故の発生件数と死亡者数は年間で以下の通りです。

施設の種類       事故発生件数総数   死亡者数総数

(合計の数           20,590件                 1,590人)

内訳                            ⇣                             ⇣

特別養護老人ホーム     11,234件(55%)1,117人(70%)

介護老人保健施設          4,321件(21%)  430人(27%)

介護関係施設は他にもありますが、このように二つの施設で全体の事故の76%、死亡事故で言えば97%が発生しています。事故の態様についていえば、転倒・転落・滑落が約10万件で62.5%、誤嚥・誤飲・むせこみなどが約2万件で12.5%となっています。

ここから言えることは、事故の大半は特養と老健施設で発生しており、態様の6割強は転倒事故ということです。

3. 事態の重大性もあって、利用者やその家族と施設との間で争いが生じることもよくあリます。当事者間で理解し合うことが難しく、合意に至らない場合、訴訟に発展することも少なくありません。裁判の場合、施設の側にきちんと利用者を見守ったり、安全のための配慮が求められるのにそれを怠ったとして、不法行為を原因として損害賠償を求めるケースがほとんどです。

ここで、実は大変に難しい問題が顔を出します。転倒事故がないようにしようとすれば、利用者の身体を拘束したり自由な行動を制限する、という方法が取られがちです。しかし、そうすることは利用者さんの自由を奪い自尊心を傷つけます。また、本来介護施設としては、利用者のADLなど身体能力などを維持し、むしろ回復させることも目的としています。身体の拘束はこの理念に逆行し、むしろ利用者の身体は廃用化が進むことが考えられます。生活の中での「ある程度の不自由」や「困難」を乗り越える努力をすることで肉体が活性化するので、手すりや段差の配置も色々と利益を見比べる必要があるわけです。

また、誤嚥・窒息といった事故の場合、職員配置の基準が3人の利用者について1人の介護士という現状(厚労省の基準です)で、利用者全員の一挙手一投足を見届けることは不可能であるという現実もあります。介護施設は、自分たちの自由なプランで職員の数を調整することなどは認められておらず、また、受け取る報酬も自由に決めることはできません。いわば、介護保険によって施設のあり方の枠組みが定められ、その土俵の上で可能な施設の個性を発揮していくこととされています。つまり、施設と利用者とは全く自由な契約関係でもないわけです。(このようにいわば縛られた経営環境のもとで、施設に不可能を強いるような、例えば結果責任的な事態の眺め方は問題です。)

4.  介護事故訴訟では医療過誤訴訟に比べ、認容率が高いのが現状です。具体的な事故の予見ができたのか、さらにそれを回避するための手立てが取れたのか、が問題となります。

介護事故訴訟は未成熟で発展途上であるとか、 裁判官が介護の現場を知らないとか、介護現場も介護事故についての認識が乏しい(重大な結果が生じると、自分の側にもっとやれることがあったのではないのか、と責任を引き取って振り返りがちなのです。)などと介護事故訴訟については語られます。

結局は、介護の現場は多様であり、生活の中で発生しうる事故に対しての(安全確保についての)明確な基準がないことが介護事故をめぐる問題の切り分けを阻む大きな理由と言えるでしょう。これらは今後一つひとつ積みあげていかなければならない課題だと言えます。

そして、施設の側と利用者・家族との間での施設の環境や利用者の身体能力に伴うリスクなど必要な情報を共有しておくことも無用なトラブルを避ける上で大切です。

 

以 上

カテゴリー: くらし 

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