季刊刑事弁護新人賞受賞! ~女性被留置者のブラトップ貸与制度が全国各地で実現~
季刊刑事弁護新人賞受賞!
~女性被留置者のブラトップ貸与制度が全国各地で実現~
弁護士 松 本 亜 土
1.はじめに
全国の留置施設で、ブラトップの貸与・購入制度の実現に取り組んだ活動について、季刊刑事弁護新人賞を受賞しました。
大阪府警の留置施設では、2024年1月中旬までは、Tシャツ型ブラトップの着用が認められていました。しかし、逮捕時に当該ブラトップを着用していなければ、家族や知り合いに差し入れてもらえない被留置者は、ノーブラで取調べを受けたり、検察庁に取調べを受けに行く運用になっていました。また、女性の被留置者には、着用できるブラトップについても周知がなされていませんでした。
しかし、女性にとって、胸を覆う肌着は、人格的尊厳を保つうえで、必要不可欠な方も多いです。他方、被留置者は、あくまでも無罪推定が及んでいる者であるため、一層捜査機関側が、人としての最低限の人格的尊厳を確保するため、環境を整えるべき事柄です。
2.大阪府警本部と交渉し、貸与制・購入制の実現!
そこで、2024年1月上旬から、大阪府警に対し、着用可能なブラトップの周知とブラトップの貸与と購入制度の導入を交渉しました。大阪府警は、女性の人権に配慮し、同月中には、着用可能なブラトップの徹底した周知とブラトップの貸与・購入制度を導入しました。
3.関西圏の留置施設にも申入れをし、全て実現!
もっとも、大阪府警以外でも、胸を覆う下着の貸与等は、なされていないのではないかと疑問を持ちました。そこで、同年3月に、関西圏の各警察本部長宛に、早急なブラトップの貸与・購入制度の導入について申入れを行いました。2024年5月末には、関西圏の留置施設において、ブラトップの貸与制度が導入されました。また、大阪府警以外では、奈良県警、和歌山県警、滋賀県警では、着用可能なブラトップの購入も可能となっています。
4.大阪から全国に!
関西圏の警察本部とやりとりをした際、運用の問題点を理解し、早急に改善したところもありましたが、残念ながら時間を要したところもありました。そのため、全国レベルで考えると、ブラトップを着用できないまま取調べが行われているところはまだまだあると実感した。
しかし、私や弁護士有志が全国の警察署長宛てに申入れをしたとしても、現実的に実効性が乏しいのではないかとも不安がありました。
そこで、方法としては、①警察庁の通達で、ブラトップの貸与をするよう義務となる指針を示してもらうことと②国会で議員に国会質問をしてもらい、ブラトップの貸与について警察庁から前向きな回答を得ることを考えました。
まず、警察庁長官宛てに申入書を送りましたが、その回答としては、通り一遍のものでした。
警察庁からの回答には期待ができなかったので、参議院議員の仁比聡平議員に、女性の被留置者の処遇の問題を訴えていました。仁比議員には、真剣に私の話を聞いていただき、国会の閉会間際で、ブラトップ問題を取り上げていただけることになりました。
国会質問の際、警察庁は、「警察庁といたしましては、既に貸与品として導入している都道府県警察が調達した製品について、全国警察で情報共有をすすめるなどにより、各都道府県警察において貸与品としての導入が図られるよう努めてまいりたい」との回答を述べました。
2024年6月時点では、貸与制度を導入している警察署は、27都道府県ありました。
警察庁長官宛てに送ったことで全国にもブラトップの貸与制が広がったと思われるうえ、国会質問で警察庁が述べた説明によって、ブラトップの貸与制度が導入される都道府県警察が今後さらに増えていくことが予想され、大いに期待するところです。
私は今後も、刑事弁護をするうえで、被留置者の立場に立ち、不当に被留置者の人権が制限されていないか等、出来る限り依頼者の声に耳を傾けていく所存です。
※新人賞受賞のURL(https://www.keiben-oasis.com/31572)
以上