憲法の破壊と どうたたかうか
憲法の破壊と どうたたかうか。 弁護士 上 山 勤
1、 今、二段構えで憲法が壊されていっています。一つは、法律や解釈でもって事実上なし崩しに。もう一つは、改憲勢力が多数を占めた国会の発議でもって、正式に。この国の形を変えてしまう企みをどうやって阻止できるでしょうか。二つのポイントに絞って説明します。
2、 25条の関係。社会保障制度が壊されていっています。自民党の憲法改正草案では、憲法83条 第2項が新設され「財政の健全性は、法律の定めるところにより、確保されなければならない」とされています。つまり、歳入・歳出が釣り合っていて赤字がない状態でなければならない、というのです。増大を続ける社会保障費(特に医療・年金)を抑え込む思想です。これは、本来は国の責任・義務であるはずの国民生活の保障を赤字だから、と言って国の支出を削減し、国民には応能負担ではなく、応益負担を求めるものです。
そこには、アベノミクスという名前で推し進められた新自由主義の経済政策と、それによる格差・貧困の拡大があります。思想的には極端な「自己責任の強調」です。国の義務であるはずの生活保障を本人の自己責任にすり替えて国民をだます戦法です。かつて、自民党の片山さつき議員は『貧困者は御恵みで保護してやる。しかし、貧困に陥るのは怠け者だ。自助努力が足りない。税金で食わしてもらっているのだから、働いている人たちより生活が低くて当たり前だ』という趣旨の発言をしました。この思想を実現し、財政の健全性を強調する法律が、実は2012年に成立しています。「社会保障制度改革推進法」です。その第2条では社会保障制度改革の基本を『自助・共助・公助』と規定しました。まずは自分で頑張れ、それが難しければ家族で支え合え、最後に公の援助だ、というわけです。まさに、自助努力ばかりを強調する一連の思想が具体化されているのです。すでに憲法25条は壊されつつある、と言えます。例えば、年金。安倍政権は世代間の公平を理由に年金支給額の切り下げを恒常化する「マクロ経済スライドを強化する」と国会答弁しています。老人はますます窮乏化し、麻生太郎副総理・財務相は『お前いつまで生きてるつもりだ』と言い放ってはばかりません(ちなみに彼は、大財閥の親分であり、決して下流老人にはならない)。介護の切り捨てや医療費アップも同じ文脈です。
3、 9条の破壊。解釈でもって徐々に軍備の増強をしてきましたが、ついに昨年、安保関連法を成立させました。法律でもって、日本が攻撃されていなくても、自衛隊が外国の地で外国人に対して攻撃を加えることが可能になったのです。いま、南スーダンに陸上自衛隊を派遣して、国連平和維持軍の一員としての活動をさせようとしています。それも嘘の宣伝で。内閣は、10月25日付で、「派遣継続に関する基本的な考え方」という文書を発表しました。そこでは、現地の状況は厳しいが、常任理事国は勿論のこと世界のあらゆる地域から62ケ国が部隊を派遣し南スーダンのために力を合わせている」とし、だから、PKO参加5原則の下で日本も派遣を継続していく、としています。しかし、この文書は全体として国民をあざむくものです。何故なら、例えば、日本は272名を派遣していますが、カナダは5名・ドイツは5名・ロシアが3名・米国は6名・英国は9名という実情なのです(国連報告)。このような具体的な数字を伏せて、日本も出遅れないように国際貢献として272名を継続しないとだめなのだ、という宣伝は国民への騙しです。
7月に首都で大規模な武力衝突がありました。日本の自衛隊の駐屯地から100mぐらいのホテルでも銃撃戦が報告されています。中国の平和維持部隊は2名が死亡し、多くの非戦闘員やボランティアが暴行・略奪・レイプの被害にあいました。このような加害行為を行った大部分の兵士は南スーダンの政府軍でした。戦車や武装ヘリコプター、迫撃砲を装備した正規軍です。自衛隊は、現地に出ていき、同じことがあれば、このような軍隊と戦闘せざるを得ないこととなり(市民の警護は「駆けつけ警護」の眼目)、必ず、悲惨な戦闘に巻き込まれるでしょう。PKO5原則をみたしているという政府の弁は嘘です。日本の自衛隊が死亡するかもしれない事態です。今まさに、法律と政府によって、憲法9条が壊されようとしています。
4、 どうやって、改憲を防ぐのか。破壊は突然にはやってきません。ありふれていますが、政府の意図を読み取り、現在社会に進行している壊憲の先取りであるさまざまな出来事に反対の声を上げていくことしか無いように思います。