生命保険金を遺産へ持ち戻しさせる内容の和解が成立しました。
「生命保険金を遺産へ持ち戻しさせる内容の和解が成立しました」
弁護士 喜 田 崇 之
【はじめに】
極めて多額の年金型生命保険金の受取人が相続人の一人に指定されていた遺産相続の件で、弁護士喜田がその他の相続人の代理人として、当該生命保険金を遺産に持ち戻したことを前提とする和解を勝ち取りました。
【事案の概要】
Xさんは、亡くなる前に、極めて多額の年金型生命保険金の受取人を長男とし、その他不動産・預金等の遺産を残して亡くなられました。Xさんには、妻と長女がおりましたが、妻と長女は、長男の弁護士から突如連絡を受け、生命保険金以外の遺産について法定相続分に基づく分割協議書に署名・押印するように求められました。
妻と長女は、生命保険金を遺産分割の対象から当然に外すという長男の弁護士の提案に戸惑いや不安を感じ、弁護士喜田がご相談にあずかりました。
【生命保険金の扱いについて】
最高裁平成16年10月29日(民集58巻7号1979号)は、生命保険金は原則的には遺産に含まれないことを前提としつつ、「保険金受取人である相続人とその他の共同相続人との間に生ずる不公平が民法903条の趣旨に照らし到底是認することができないほどに著しいものであると評価すべき特段の事情が存する場合には、同条の類推適用により、当該死亡保険金請求権は特別受益に準じて持ち戻しの対象となると解するのが相当である。」と述べております。
つまり、長男が生命保険金を受け取った場合、原則として生命保険金は遺産分割の対象となりませんが、不公平が著しい場合には、その生命保険金も遺産に持ち戻して計算しなければならないことになります。
どのような場合に不公平が著しいと判断されるかについての審判例は極めて少ない状況なのですが、本件では、上記生命保険金の金額は遺産全体の半分程度を占めるもので、最高裁の特段の事情に該当すると判断される可能性がありました。
そこで、妻と長女は、2012年12月長男に対し、生命保険金を遺産に持ち戻した上での遺産分割を求める調停の申立てをしました。
【和解内容】
調停では話し合いがまとまらず、審判手続きに移行しました。審判手続きでは、裁判官が、手続きの中で、本件では上記最高裁判決の特段の事情に該当する可能性が高いことを明らかにし、その後、生命保険金が持ち戻しの対象となることを前提とした和解が成立するに至りました。
【最後に】
最終的に遺産に関する全ての決着がつくまでには時間がかかりましたが、上記最高裁判決の「特段の事情」に該当することを裁判官に理解させ、これを前提とした和解を勝ち取ることができたことは、大きな意義のある和解となりました。
遺産相続に関しても、様々な論点があり、多くの判例が蓄積されています。専門的な判断がなければ、不公平な遺産分割を余儀なくされることもしばしば起こります。
相続の関係でお困りの際は、ぜひ、一度、ご相談下さい。