[刑事]に関する記事
犯罪被害者の損害賠償命令申立制度
弁護士 須井 康雄
犯罪被害にあわれた方は,刑事手続のなかで,損害賠償命令の申立てができます(犯罪被害者等の権利利益の保護を図るための刑事手続に付随する措置に関する法律,以下「犯罪被害者保護法」といいます。)。
この制度は,(1)別途,民事裁判を起こす負担がない点,(2)刑事事件の証拠が利用できるので,犯罪行為に関する立証の負担も少なくて済む点,(3)裁判所に納める印紙代が損害額にかかわらず2000円で済む点,(4)時効期間の進行を止められる点,(5)非公開の審理が可能な点で,犯罪被害者の方の損害の回復に役立つ制度です。
ただし,この制度が使えるのは,①故意の犯罪行為により人を死傷させた犯罪,②強制わいせつ,強姦,準強制わいせつ,準強姦,③逮捕監禁,④略取誘拐,人身売買,⑤前記②~④の犯罪行為を含む犯罪,⑥これらの未遂罪の被害にあわれた方に限られます(被害者保護法23条1項)。
申立は,地方裁判所での被告事件の弁論が終わるまでに,申立書を裁判所に出さなければなりません(犯罪被害者保護法23条1項)。弁論のスケジュールや担当裁判所は担当の検察官に確認すれば教えてもらうことができます。
損害賠償命令に関する審理は,被告人に対する有罪判決後,始まります。原則として4回以内に審理を終えます(犯罪被害者保護法30条3項)。4回以内に審理を終えられない場合,民事裁判に移行します。その際,請求額に応じて決まる印紙代との差額を納めなければなりません。移行後は,通常の民事裁判の手続で審理されます。
損害賠償命令が出された場合,送達又は告知を受けた日から2週間以内に適法な異議がなければ,確定判決と同一の効力を持ち,時効期間が10年に延長され,強制執行ができるようになります。適法な異議があれば,民事裁判に移行します。
このように損害賠償命令制度は,犯罪被害者の方の損害の回復を容易にする制度です。しかし,ご自身で対応される場合,相当な心理的負担を伴うことがあります。損害賠償命令制度のご利用をお考えの方は,弁護士にご相談ください。
共謀罪を廃止しよう
共謀罪を廃止しよう 弁護士杉島幸生
安倍内閣は、参議院法務委員会での採択を省いた「中間報告」という禁じ手を使って共謀罪を強行採決しました。そのあまりの強引さに支持率も急落しましたが当然のことです。
共謀罪は、277の罪について二人以上で実行を協議した、話し合った、そのこと自体を犯罪とするものです。「自分は犯罪について協議したり、話し合ったりなんてしないから大丈夫」と言う方も多いかと思います。
しかし、けしてそうではありません。これまでは「人を殺す」「物を盗む」などの具体的な犯罪行為がなければ、警察による捜査の対象とはなりませんでした。これだと自分は対象にはならないと自信をもつこともできるでしょう。
ところが共謀罪はそうではありません。「協議すること」、「話し合う」ことが「犯罪」なのですから、実際には、そんな協議や話し合いなんてしていなくても、警察が、「しているかもしれない」と考えれば、共謀罪の容疑があるとして捜査を開始することができるのです。権力にとって邪魔な動きをする市民団体に対して、「なにかよからぬことを協議しているかもしれない」「共謀罪の容疑がある」といちゃもんをつけて、呼び出し、取り調べ、周辺調査を開始して干渉するということが可能となるのです。私たちのプライバシーが丸裸になってから、警察から「よかったね。共謀罪の容疑ははれましたよ」といわれても奪われたプライバシーは元にはもどりません。警察に市民監視の絶大な権力を与えるの共謀罪の狙いです。国会秘密保護法、戦争法、共謀罪、9条改憲発言。その行き着く先は、管理社会、戦争国家かもしれかせん。
こうした流れを止めるためには、なんとしても安倍自公内閣を変えなくてはなりません。その力は、みなさんがもっている一票です。
監視社会は、絶対あかん!5・21大阪大集会で共謀罪廃案を!
市民集会「5・21大阪大集会で共謀罪廃案を!~監視社会は、絶対あかん!~」が開催されます
とき:5月 21日(日)14:00-15:00
ところ:大阪市靭公園(地下鉄中央線・四ツ橋線/本町駅下車)
参加費:無料
主催:大阪弁護士会
「共謀罪名前を変えても レッドカード共謀罪法案の問題点を浮き彫りに」
市民集会「共謀罪 名前を変えても レッドカード ~共謀罪法案の問題点を浮き彫りに~」が開催されます
とき:2017年3月10日(金)18:30~20:30
ところ:大阪弁護士会館 2階ホール(大阪市北区西天満1-12-5)
プログラム:共謀罪法案の概要報告
対談ゲスト 平岡秀夫氏(元法務大臣、弁護士(第一東京弁護士会))
平岡さんと大阪弁護士会プロジェクト委員との『論点』徹底討論!
参加費:無料
主催:大阪弁護士会
弁護人接見妨害国賠訴訟
弁護人となろうとする弁護士が、留置中の被疑者と接見するためを警察署に赴いたところ、警察署内への立入りを阻止して接見を妨害したことが違法とされた事例 弁護士 井上 直行
大阪地方裁判所平成13年2月23日判決(原告:篠原俊一弁護士、被告:大阪府)
大阪地裁は、 「此花警察署の警察官らは、原告が弁護士であり、本件被疑者らの弁護人となろうとする者であることを知りながら、原告からの接見の申出を無視し、庁舎への立入りを拒絶することにより、本件被疑者らと接見を妨害したものと認められる。
なお、前記一1のとおり、弁護人等から接見の申出があっても、現に被疑者を取調中であるなど捜査の中断による支障が顕著な場合には、直ちに接見させなくとも違法ではないが、本件において、仮にそのような必要性があったとしても、およそ原告と応対した警察官らは、弁護人等と協議してできる限り速やかな接見のための日時等を指定し、被疑者が防禦のため弁護人等と打ち合せることのできるような措置をなんらとっていない。
仮に原告の態度が、被告らの主張するように、名も名乗らず、名刺も出さず、紳士的でなかったとしても、許されるべきことではない。
被告らは、原告が、当初から、庁舎に入っていたとしても、本件被疑者らが取調中であったため、直ちには接見できなかったもので、後刻実現した接見時刻まで待機させざるを得なかったから、此花警察署の措置になんら違法はない旨主張するが、前述した経緯を照らすと、その措置には、接見交通権の重大さに対する配慮が欠けていたというほかなく、違法の誹りは免れない。」と判決した。
この判決は、判決の「事実認定」の中に、関西合同法律事務所の弁護士がたくさん登場しているという点で珍しいです
「原告は、平成10年3月19午後6時35分ころ、本件被疑者らと接見するため、此花警察署に到着した。
その際、同署前には、同署所属の警察官数十名が、同署敷地と歩道の境界辺りに阻止線を張っていた。
原告は、本件被疑者らの支援に駆けつけていた者たちから、本件被疑者らの身柄が庁舎内にあると告げられ、庁舎内に立ち入ろうとした。
そこで、原告は、警察官濵野に対し、弁護士であると名乗り、本件被疑者らに接見するため、来署した旨告げた。
その際、原告は、弁護士バッジを示したが、警察官濵野は、原告が弁護士であることを認めず、「ここは立入り禁止です」「出て行きなさい」と言って、応じなかった。 原告は、同日午後7時過ぎころ、別紙見取図<2>の位置で、目前にいた警察官田仲らに対し、此花警察署の庁舎に入れるよう、自分で判断できないのなら上司に取り次ぐよう要請した。
これに対し、警察官田仲らは、なんの回答もしなかった。
引き続き、原告は、そばにいた警察官濱野らに対し、庁舎に入れるよう説得したが、拒否された。 そのころ、応援を求めた関西合同法律事務所の松本七哉弁護士と井上直行弁護士が、此花警察署前に到着し、庁舎に入った。
同弁護士らは、署内にいた警察官から「立入禁止です。出て行って下さい」と言われたが、弁護人として接見に来たものであるとして、その場に止まった。 同じく関西合同法律事務所の杉島幸生弁護士が、午後7時20分ころ、此花警察署前に到着し、弁護人として接見に来た旨告げ、庁舎に入ろうとしたが、警察官らに阻止され、直ちには入れなかった。」
ポスター貼り弾圧とのたたかい
ポスター貼り弾圧とのたたかい
弁護士 松本 七哉
1.休日に、家族と買物に出かけようとするところに、突然、事務所の弁護士から電話がかかってくる。「此花区で逮捕者が出た。 連絡がつくのはお前しかおらん」。このようにして弾圧事件への対応が始まる。ブーイングの家族をなだめて、スーツに着替え、逮捕者がいる警察に急行する。
2.さすがに、かつてのような大がかりな弾圧事件は影をひそめた(それでも、2003年の衆議院選挙であった、国家公務員が休日にビラ配布をしただけで逮捕された堀越事件のような例もあるが)。現在、最も多いパターンは、共産党や民主団体が行うポスター貼りに対して、軽犯罪法や屋外広告物条例を根拠に行ってくる逮捕である。
同期の弁護士に、この話をすると、今どきそのような差別的、政治意図にもとづく逮捕があること自体、信じられないと驚く。
しかし、一時期、毎年1月15日の成人の日には逮捕者が出たり、我々が逮捕直後に警察に駆けつけると、4~50人の警備警察が物々しい警戒線をはり、大阪府警の公安が陣頭指揮を取っているなど(このようななかで、例の篠原事件は起こった)、 彼らが準備をして行っているものであることは明らかである。彼らの意図は、逮捕により運動の足を止めることにあり、まさにこれは「弾圧」なのである。
このようにして起こった弾圧事件(事務所の弁護士が対応したもの)は、以下のとおりである。
1986年
1月15日、城東区で1名が軽犯罪法で逮捕
8月22日、城東区、2名、軽犯罪法
11月26日、北区、1名、屋外広告物条例、2日間拘束
1987年
3月10日、高槻市、3名、軽犯罪法、3日間拘束
3月18日、高槻市、2名、屋外広告物条例、1日間拘束
1988年
2月16日、都島区、1名、軽犯罪法、3日間拘束
1989年
2月5日、城東区、2名、屋外広告物条例、5時間拘束
3月5日、東淀川区、3名、軽犯罪法、屋外広告物条例、3時間拘束
4月8日、此花区、1名、軽犯罪法、9時間拘束
12月30日、高槻市、1名、屋外広告物条例、25時間拘束
1990年
1月13日、城東区、1名、軽犯罪法、6時間拘束
2月4日、高槻市、3名、屋外広告物条例、3時間拘束
5月26日、北区、1名、軽犯罪法、7時間拘束
11月12日、高槻市、2名、軽犯罪法、屋外広告物条例、4時間
1991年
1月20日、西淀川区、1名、屋外広告物条例、2時間拘束
2月3日、島本町、1名、軽犯罪法、屋外広告物条例、12時間
2月24日、鶴見区、2名、軽犯罪法、24時間拘束
10月23日、此花区、1名、軽犯罪法、4時間拘束
1992年
6月25日、大淀区、2名、軽犯罪法、5~25時間拘束
6月27日、淀川区、1名、軽犯罪法、8時間拘束
1993年
10月16日、城東区、2名、軽犯罪法、3時間拘束
1994年
1月9日、此花区、2名、軽犯罪法、3~6時間拘束
1月15日、北区、4名、軽犯罪法、4~46時間拘束
9月11日、東淀川区、2名、軽犯罪法、2時間拘束
1997年
1月15日、旭区、1名、軽犯罪法、6時間拘束
1998年
2月11日、福島区、3名、軽犯罪法
3月19日、此花区、2名、軽犯罪法、4~6時間拘束(これが、別に述べる篠原国賠事件が起こった事件である)
10月1日、北区、1名、 軽犯罪法、19時間拘束
1999年
1月30日、西淀川区、2名、軽犯罪法、2時間拘束
3月8日、西淀川区、2名、軽犯罪法、25~28時間拘束
この20年間で、大阪府下で起こった弾圧事件は、100件を超えるが、うち約30件を事務所が担当した。2000年以後も、大阪全体では10件の事件が発生しているが、事務所の担当地域では発生していない。98年末に篠原国賠訴訟を提起したことと何らかの関連があるかもしれない。
3.逮捕後、「被疑者」と接見できるのは弁護士しかいない。我々は、被逮捕者と接見をし、被逮捕者を励まし、今後の予想される事態を説明するとともに、状況の判断を行う。基本的には、氏名も含む完全な黙秘をアドバイスするが、事案によっては、早期の釈放を優先しなければならないし、上記の堀越事件のように関連先の家宅捜索も行われることがある。
完全黙秘のまま、逮捕当日に釈放を勝ち取ることができればベストである。
被逮捕者とともに、支援者の拍手に迎えられながら、警察の階段を降りていくのは弁護士冥利につきるものである。
ワイセツ知事ノックアウト
ワイセツ知事ノックアウト
「50年のあゆみ」より 弁護士 寺沢 勝子
「いたわりの気持ちで太股にさわっていった」横山ノックは強制ワイセツで起訴された刑事公判廷でこう述べました。
平成11年4月8日、候補者カーからわざわざ毛布を持って伴走車に乗り移ってきて、下着の中に手を入れてワイセツ行為をしたのにです。
初めは、「真っ赤なウソ、でっちあげ」と言って被害女性を逆に虚偽告訴罪で告訴。起訴されて知事を辞め、犯罪行為を認めてからでも、裁判所に対しては反省していると言ったものの、一度も彼女に謝罪をしたことはありませんでした。
最後に、裁判所から「今、どうしていますか」と聞かれた答えが、「健康のために5000歩、歩いています」でした。反省など形だけです。
この裁判では、平成12年の刑事訴訟法の改正前でしたが、被害者が証言するのに、加害者や傍聴人との間に衝立を置き、カウンセラーが付き添うなどの措置がとられ、現在でも法律上は実現していない、起訴状朗読や冒頭陳述、調書の読み上げ 、証人尋問での被害者のプライバシー保護の措置を裁判所に認めさせることができました。