労働問題・債務整理・家庭問題・その他、大阪の法律相談なら関西合同法律事務所へお任せください。

[くらし]に関する記事

介護施設での事故について(弁護士上山勤)

2025-02-10

介護施設での事故について

 

弁護士 上山勤

 

1. 現在、約690万人の方が要介護(要支援)認定を受け、介護を必要とする高齢者を支える制度として介護保険制度は定着しています。介護保険への加入は40歳以上の国民の義務とされていて原則、介護保険料の支払いが強制される仕組みとなっています。単純な任意の保険関係ではなく、システム自体が国家の装置で、例えば、どれだけの人員や費用を投入するかも基本的に国が政省令や通知等で(施設の人員・設備・運営基準・介護報酬など)を定めています。施設の環境に関し、従業員の人数は最低限が規制され合理化には限度がある。介護報酬は法定されていて(24年度は切り下げられた)、現実には、赤字になるギリギリのところで、介護事業を回しているのが実情だと言われています。

従って、介護施設で事故が発生したような場合、純粋に民法上の不法行為や契約関係(債務不履行)の問題だけでは割り切れない側面があるのです。その点で法的な過失があるかないか、といった議論だけでは表面的な考察に陥る危険があります。

2.  昨年は介護保険制度が始まって以来、介護施設の倒産件数が過去最大となったと報じられています。介護事業者全体の倒産や休廃業・解散は昨年、過去最多の784社と報じられています。中でも全体の7割近く(67.5%)を占めた訪問介護の廃業は、自民・公明政府が24年報酬改定で基本報酬を2~3%引き下げたこともあり、急増でした。そうした中で新潟県村上市は、報酬引き下げによる減収分を昨年4月の改定時にさかのぼって独自に補助するそうです(同趣旨の自治体補助は全国初)。

私たちは誰もが歳をとり、将来お世話になる可能性の高い介護施設。老人は増える  一方なのに施設は倒産・閉鎖では困ります。私たちの未来をどうしてくれる、という思いがします。もっと必要な財政出動を行うべきでしょう。 こんな逼迫した状況のもとで、介護の現場で利用者の事故が起きています。厚生労働省が2023年度に行った介護保険事業状況報告によると、介護事故の発生件数と死亡者数は年間で以下の通りです。

施設の種類       事故発生件数総数   死亡者数総数

(合計の数           20,590件                 1,590人)

内訳                            ⇣                             ⇣

特別養護老人ホーム     11,234件(55%)1,117人(70%)

介護老人保健施設          4,321件(21%)  430人(27%)

介護関係施設は他にもありますが、このように二つの施設で全体の事故の76%、死亡事故で言えば97%が発生しています。事故の態様についていえば、転倒・転落・滑落が約10万件で62.5%、誤嚥・誤飲・むせこみなどが約2万件で12.5%となっています。

ここから言えることは、事故の大半は特養と老健施設で発生しており、態様の6割強は転倒事故ということです。

3. 事態の重大性もあって、利用者やその家族と施設との間で争いが生じることもよくあリます。当事者間で理解し合うことが難しく、合意に至らない場合、訴訟に発展することも少なくありません。裁判の場合、施設の側にきちんと利用者を見守ったり、安全のための配慮が求められるのにそれを怠ったとして、不法行為を原因として損害賠償を求めるケースがほとんどです。

ここで、実は大変に難しい問題が顔を出します。転倒事故がないようにしようとすれば、利用者の身体を拘束したり自由な行動を制限する、という方法が取られがちです。しかし、そうすることは利用者さんの自由を奪い自尊心を傷つけます。また、本来介護施設としては、利用者のADLなど身体能力などを維持し、むしろ回復させることも目的としています。身体の拘束はこの理念に逆行し、むしろ利用者の身体は廃用化が進むことが考えられます。生活の中での「ある程度の不自由」や「困難」を乗り越える努力をすることで肉体が活性化するので、手すりや段差の配置も色々と利益を見比べる必要があるわけです。

また、誤嚥・窒息といった事故の場合、職員配置の基準が3人の利用者について1人の介護士という現状(厚労省の基準です)で、利用者全員の一挙手一投足を見届けることは不可能であるという現実もあります。介護施設は、自分たちの自由なプランで職員の数を調整することなどは認められておらず、また、受け取る報酬も自由に決めることはできません。いわば、介護保険によって施設のあり方の枠組みが定められ、その土俵の上で可能な施設の個性を発揮していくこととされています。つまり、施設と利用者とは全く自由な契約関係でもないわけです。(このようにいわば縛られた経営環境のもとで、施設に不可能を強いるような、例えば結果責任的な事態の眺め方は問題です。)

4.  介護事故訴訟では医療過誤訴訟に比べ、認容率が高いのが現状です。具体的な事故の予見ができたのか、さらにそれを回避するための手立てが取れたのか、が問題となります。

介護事故訴訟は未成熟で発展途上であるとか、 裁判官が介護の現場を知らないとか、介護現場も介護事故についての認識が乏しい(重大な結果が生じると、自分の側にもっとやれることがあったのではないのか、と責任を引き取って振り返りがちなのです。)などと介護事故訴訟については語られます。

結局は、介護の現場は多様であり、生活の中で発生しうる事故に対しての(安全確保についての)明確な基準がないことが介護事故をめぐる問題の切り分けを阻む大きな理由と言えるでしょう。これらは今後一つひとつ積みあげていかなければならない課題だと言えます。

そして、施設の側と利用者・家族との間での施設の環境や利用者の身体能力に伴うリスクなど必要な情報を共有しておくことも無用なトラブルを避ける上で大切です。

 

以 上

障害者の事故と逸失利益(判例紹介)

2025-01-27

障害者の事故と逸失利益                    弁護士 井上直行

最近の下級審判例を紹介します。

事故にあって後遺障害になったり死亡したりの場合、損害として逸失利益(いっしつりえき)の賠償を請求することができます。逸失利益は、被害者が事故にあわなければ、将来得られる可能性がある利益です。逸失利益の計算は、現実に働いている人が事故にあった場合には、被害者本人の事故前の収入を計算の基礎としますが、子どもや専業主婦など働いていない人の場合には、賃金センサスという平均賃金が基礎となるとされています。

今回の裁判は、死亡した聴覚障害のある児童につき逸失利益を障害を理由として減額して算定するか争われました。
2023年2月27日、大阪地方裁判所は、交通事故で死亡した聴覚障害のある児童の逸失利益を全労働者の平均賃金の85%とし、障害を理由に15%減額しました。

児童の両親である原告らは控訴し、2025年1月20日、大阪高等裁判所は、障害のある者も障害のない者と同等に全労働者の平均賃金によって逸失利益を算定すると判決しました。

画期的な判決であり、大阪高裁の判決文を引用すると、

「損害の衡平な分担
生命・身体の価値は本質的に金銭に換算しえない、市場価値を有さない性質を帯びることから、全労働者の平均賃金に基づく基礎年収を認めることが、被害者に「損害」以上の補填を認めることになるということ自体おかしなことである。人身損害の賠償は、法益侵害によって喪失した利益・価値を補填するとの規範的判断に依拠する以上、実損主義と相容れるものでないし、被害者に利得が生じること自体を観念しえない。
損害の衡平な分担の理念に照らしてみても、加害者に過大な負担を強いるものでもなく、不公正な結果が生じることはない。
そのため、人の生命・健康という法益が侵害された場合の損害の算定も、規範的要素を伴うものによるべきことになるが、その考慮に当たって重視されるべき規範的要素は、人間の尊厳の尊重やその本質的価値の平等である。障害の有無といった特定の属性を理由とする減額を認めるような、平等原理と抵触するような評価は到底許されない。」

「経験則と良識の活用
不法行為がなかった状態を想定し、これと実際の状態(不法行為があった状態)との利益状態の差(金銭的な差額)を損害とするという考え方である差額説は、人の生命・健康といった法益が侵害された場合には妥当しない。また、年少者の将来の収入を高度の蓋然性をもって立証することはおよそ不可能であるから、将来の単純な予測ではなく、規範的判断が求められる。
聴覚障害のある者にとってコミュニケーションの手段は音声に代わる手話や筆談、音声認識アプリ等に置き換えられているし、合理的配慮の義務化により、職場がコミュニケーションの方法の構築を支援しなければならないことも要請されている。現状でも、障害者法制の整備により障害のある者の環境は整備され、テクノロジーは著しく進歩しており、社会においても政府が医学モデルと決別する旨宣言するなど、社会の意識識も着実に変化してきており、将来における障害のある者と障害がない者との間の就労可能性や労働能力の差はなくなっていく方向に向かうのは確実である。年少障害者の逸失利益は、今後半世紀にわたって得られたはずの収入を算定するのであるから、本件においても、法と政策、社会の実態や意識の変化、とりわけ聴覚障害者の置かれている状況の変化、さらには、Aの成育歴や今後の可能性等に鑑み、従来の考え方を克服して、障害のある者も障害のない者と同等に平均賃金によって逸失利益を算定する判断を示すべきである。」

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/741/093741_hanrei.pdf

坂本堤弁護士(1956年-1989年)が、弁護士になって(1987年4月)すぐ取り組んだのが、「障害のある者も障害のない者と同等に平均賃金によって逸失利益を算定すべきである」という問題です。学校事故で死亡した障害のある生徒の損害賠償請求訴訟を代理人として提起しました。それから38年!ようやく画期的判決に実を結びました。

 

 

 

悪徳サブスクにご用心 (弁護士佐々木正博)

2023-11-02

悪徳サブスクにご用心

弁護士 佐々木 正博

私の知人(Aさん)が実体験した事件をご紹介します。

Aさんは、あるファッションレンタルサービスを利用していました。
月額料金(だいたい5000円~2万円程度が多いです)を支払うと、毎月、業者が選んだ洋服が一定枚数送られてきて、気に入ったものは着て、約束の期限が来たらクリーニング不要で返却するというものです。服(ファッション)のサブスクリプションサービス(サブスク)とも言われます(※業者によって料金・システムに相違はあります)。

Aさんは、1年程度利用を続けていましたが、ある日、返却した服が破損していたとして、1万0450円が勝手にカード決済されていたのです。実は、その服は少しの時間一度しか着ておらず、しかも、状態を確認してから返却したので、あり得ないものでした。
破損の内容について業者に説明を求めても何ら詳細な説明もなく、破損個所の写真なども一切示されませんでした。

また、業者のメールアドレスにメールを送信しても返信まで最大4週間かかると言われ、途方に暮れてしまいました。そこで諦めないAさんは、Webサイトに表記されている会社所在地に内容証明郵便も送りましたが、企業なのになぜか不在で別の郵便局に転送されるし…。何度も粘り強く申し入れを行ない、ようやく返金を受けることができましたが、それまでにかけた労力や内容証明郵便代など、大きな負担を強いられる結果となってしまいました。

この騒ぎの際中、インターネットを検索してみると、同様の被害(破損させた覚えが無いのにもかかわらず高額の修理代が勝手に引き落とされていた、とか、解約した途端に、かなり前の身に覚えのない修理代が突如引き落とされていた)や、それ以外の不自然な事例も無数に報告されていました。そういった被害を受けた方々のSNSグループもいくつか立ち上がっているようで、私もグループに入ってみました。現在もたくさんの事例が挙げられています。

サブスクリプションサービスは、色々な分野に広がっています。サブスクリプションサービスは、とても便利なサービスで、コストパフォーマンスの良さが魅力的です。しかし、多くはクレジットカード決済の場合が多く、知らない間に身に覚えのない支払いがされてしまう危険もあります。

真面目に運営されているサブスクリプションサービスが殆どだと信じていますが、このような架空請求と言わざるを得ないような業者が存在するのは事実です。いわゆる比較サイトでは、いまだに問題の業者がおすすめ上位にランクされています。皆様も、サブスクリプションサービスを利用される際には、色々な情報源から慎重に検討されることを強くお勧めします。

【民法改正】民法の定める成年年齢を18歳に引き下げる

2022-04-01

【民法改正】民法の定める成年年齢を18歳に引き下げる             弁護士 松本 七哉

民法改正により、2022年4月1日より、成年年齢が18歳となります。それは18歳になれば、親の親権に服さなくなるということで、親の同意なく一人で法律行為ができる(例えば、自動車を買える。賃貸借契約ができる。ローンが組める)ようになります。他方で、未成年者については、親権者に契約の取消権がありますが、18歳になると、軽はずみな契約をしても取消ができなくなります。お酒やたばこは、20歳のままで、変更はありません。

 

 

 

 

【生活保護】保護費引下げ裁判で勝訴

2022-01-12

生活保護引下げ裁判で勝訴    弁護士 喜田崇之

歴史的な勝訴判決

大阪地方裁判所は、2021年2月22日、平成25年から平成27年にかけて段階的になされた生活保護引下げが、生活保護法3条、同8条2項に反して違法であると判断する歴史的な判決を下しました。生活保護基準をめぐる裁判での原告側勝訴判決は、老齢加算廃止訴訟福岡高裁判決(2010年6月14日)以来であり、「加算」部分ではなく、生活扶助費本体についての勝訴判決となると、実に、朝日訴訟東京地裁判決(1960年10月19日)に遡ることになります。

同種裁判は全国29地裁で提訴されており、すでに2020年6月25日名古屋地裁判決が敗訴判決を下しましたが、それに続く全国で二番目の判決でした。本判決は、全国総勢原告団1000名以上の原告団、300名以上の弁護団、支援者の努力が積み重ねって実現した成果です。

本裁判は、2014年12月に提訴して2020年12月に結審するまで約5年に渡って審理がなされ、原告らは、実に49通の準備書面(そのどれもが非常にボリュームのあるものである)とその主張に必要な膨大な書証を提出しました。私自身、月5000円、10000円の引下げによって、原告一人一人が、どのような思いでいるのか、どのような毎日を過ごしているのか、どのような苦しい思いをして月数千円を節約しているのか、最終弁論で訴えてきました。

国は、「デフレ調整」「ゆがみ調整」を根拠として、総額約670億円、一世帯当たり平均6.5%もの削減を強いる、戦後最大の生活保護費削減を強行したのですが、判決は、「統計等の客観的な数値等との合理的関連性や専門的知見との整合性を欠くものというべきであるから・・・その判断の過程及び手続に過誤、欠落があるといわなければならない」と判断し、減額処分が違法であると判断しました。

今後に向けて

国側の控訴により、現在は大阪高等裁判所で審理が続いています。この裁判闘争は、生活保護に対する社会の意識を変えるとともに、年金・介護その他様々な分野の社会保障切り捨ての政府の姿勢に大きく歯止めをかける極めて重要な闘いです。現在、全国の弁護団・当事者・支援者らが力を結集して、闘っています。ぜひ、皆さんにも裁判にご支援いただきたいと思います。(関西合同法律事務所では、清水亮宏弁護士も弁護団として奮闘しています。)

遺族年金不支給決定への再審査請求が認められた

2021-11-04

遺族年金不支給決定への再審査請求が認められた

                                                ~ 厚生労働省のコロナ対応はなってない ~          弁護士 寺 沢 勝 子

遺族年金は死亡した人の配偶者で死亡時にその人によって生計を維持していた者に支給されます。この配偶者には事実上婚姻関係と同様の事情にあったものを含むとされています。

依頼者さんは、躁うつ病の夫とは夫の親が強く夫に求めたため離婚。しかし、離婚後も8年間ずっと交流を続け、元夫も生活費を振り込んできました。しかし、元夫が失業したため、「仕事につけるまでは仕送りは中断してもいいよ。」と言ったので半年仕送りを中断したけれど、仕事も見つかり50万円を振り込んできたのに元夫はその半年後に自殺してしまいました。依頼者さんは元夫によって「生計を維持した事実上婚姻関係と同様の状態にあった。」として遺族年金を申請しましたが、不支給決定がされ、審査請求も棄却され、再審査請求をしたのです。 子どもと一緒に家族で旅行している写真や元夫とのライン、振込みがされた通帳を証拠として提出し、躁うつ病の夫(元夫)とどう向き合い、支えてきたかを立証し、再審査請求は認められ、不支給決定は取り消されました。依頼者さんの苦労を考えると社会保険審査会の裁決は、「よかった、よかった。」なのです。が、厚生労働省のコロナへの対応には言いたいことがあります。

公開審理の呼出状が届きましたが、緊急事態宣言のもと「東京には来るな!」と言っている真っ最中の呼び出しで、「来なくてもいいよ。」とはなっていますが、再審査を申し立てている以上、行って事実を述べたいのです。

行ってみると、まず、厚労省の庁舎に入る前に、門のところにガードマンが2人いて検問があります。ここを通過すると庁舎の入り口で、呼出状と身分証明書を示し、紙に住所氏名を書き、首からつるす通行証をもらいます。(ボールペンを消毒している様子はなく、通行証も使用後使いまわしているよう)自動改札機に通行証を当てると通過でき、エレベーターホールへ進めます。エレベーターの前には消毒液が置かれています。 社会保険審査会のある階に行き調整室(この部屋の前にも消毒液が置いてあります。)に行って用意した意見書・陳述書15部づつを渡し、来室したことを言うと控室で待つように言われます。控室は細長くて狭く窓もなく、待っているのが3組(代理人ともで6人)だったので、マスクをしているとはいえ密です。それぞれが打ち合わせをしていて、「すみません。」と言って椅子から立ってよけてもらって後ろを通るのがやっとで、そうしないと控室から出てトイレにも審理室にも行けません。

審理室には審査長と審査員2人,参与4人、事務局と録音係に私達請求人と請求人代理人。向かいには保険者(厚労省の役人)がなんと5人もぎゅうぎゅう詰めに座っているではありませんか。そのうちの1人が「意見書のとおりです。」と言うだけなのに。ほかの4人は何のために座っているのか。参与の4人がそれぞれ、自分の言葉で認めるべきと言ってくれたのとは対照的でした。審理室はドアが閉められており換気がされている様子はなし。(別の審査請求事件ではコロナ対応を理由に決定を3ケ月も延ばされたのに厚労省の役人が5人もいる必要はありません。)

帰りは、通行証を自動改札機に当てて通過し、係の人の袋に通行証を入れて返します。

セキュリティにばかり気を使い、国民が来るのはアンウエルカムな役所、厚労省。9月にはコロナウイルスの感染者の総数が160万人を超えている。厚労省は何をしているのと思います。

死後事務委任契約・・立つ鳥あとを濁さず

2021-07-02

弁護士 杉島幸生(関西合同法律事務所)

以前、遺言について書きましたが、なかには自分には残すべき財産も、身よりもないから関係ないと思われた方もいらっしゃったことでしょう。

しかし、死は誰にでも訪れます。自分の遺体や、住んでいるアパートはどうなるのだろう、役所への届けは・・・などなど、実は身寄りのない方ほど気になるところではないでしょうか。そうしたときに役立つのが「死後事務委任契約」です。

これは、生前に、自分が信頼をおける親族や友人、司法書士や弁護士などの専門家との間で、遺体の引き取り、葬儀に関する事務、親族、友人などへの連絡、賃貸アパートの退去明け渡し、遺品の整理、光熱費等の精算、役所への各種届け等、死後必要となる様々な「事務」を任せるという約束を取り交わしておくというものです。これにより事務を任された人(受任者)は、法律上の権限をもって処理にあたることができるようになります。

「死後事務委任契約」は、有効に成立していることを示すため、公証役場で作成する公正証書にするのが通常です。専門家に委任することができれば安心ですが、どうしてもそこそこの費用が必要となります。親族や友人などに委任する場合は、実費相当額と最低限の謝礼分ですみますが、その場合は、その人が死後の事務を任せることのできる人物なのかの見極めが必要です。

また、混乱が起きないよう、あなたと受任者とで、あなたの死後必要となる事務をひとつひとつ確認しながら契約書を作成することが大切となります。「立つ鳥あとを濁さず」のことわざどおりに、きれいに旅立つために「死後事務委任契約」は有効な方法のひとつだと言えるでしょう。

【債権法改正】消滅時効の規定が変わりました

2020-09-07

弁護士 高橋早苗

 2020年4月1日から改正された民法が適用されるようになりました。今回の改正された条文は多数ありますが、ここでは消滅時効について説明します。

消滅時効とは、権利を行使しないままでいると一定期間経過後にその権利が消滅してしまうという制度です。これまでは、原則的には権利を行使することができるとき(例えば個人の間でのお金の貸し借りなどの場合は返済期限)から10年とされていましたが、飲食代や宿泊代は1年、弁護士の報酬は2年、医師の診療報酬は3年など職業によって10年より短期の消滅時効が定められているものもありました。また、商行為によって生じた債権は「商事消滅時効」として5年とされていました。

今回の改正では、原則として一律に「権利を行使することができると知った時から5年」、「権利を行使することができる時から10年」とされました。

ただし、人の生命又は身体の侵害による損害賠償請求権(債務不履行によるものも不法行為によるものも)の時効期間は原則と異なり、損害および加害者を知った時から「5年」、権利を行使することができる時から「20年」の時効にかかるとされました。生命・身体への侵害はそれ以外に対する侵害よりも重大ですから、時効期間をこれまでの3年から5年へと長期化したのです。これに対し、不法行為によって生命・身体以外の損害を受けた場合(例えば自分の所有物を壊されたなど)の不法行為に基づく損害賠償請求権は、これまでと変わらず、損害及び加害者を知った時から3年、不法行為の時から20年の時効にかかります。

なお、労働基準法も改正され、2020年4月1日以降に支払日がくる労働者の賃金請求権の消滅時効は,従来の2年から3年に延長されました(労基法115条で5年とされましたが,同法143条2項で当分の間3年とされました。)。

また、今回の改正ではこれまで時効の「中断」と呼ばれていたものを「更新」、「停止」と呼ばれていたものを「完成猶予」と呼び用語をわかりやすくしました。時効の「更新」とは、更新事由があれば時効期間がリセットされ、また一から時効期間が始まるという制度です。これに対し、時効の「完成猶予」とは、時効期間が進行しているものの、猶予の事由が生じている間は、時効の進行が止まり時効が完成しないという制度です。猶予事由が終了すると、引き続き残りの時効期間が進行することになります。当事者間の協議による時効の完成猶予の制度も新設されました。

どのような事由が「更新」や「完成猶予」にあたるか、ご自身の請求権やご自身の抱える債務が時効にかかるかどうかなど、ぜひご相談ください。

新型コロナ禍-利用できる制度(2020.4.28現在)

2020-04-28

まだまだ不十分な政府のコロナ対策ですが、現行でもいくつかの制度の利用が可能です。各制度の利用については、いろいろな要件があり、またケースごとの判断を要する場合もあります。お気軽にご相談ください。

【職場から休むように指示し、されたとき】

① 労働者 労働基準法26条に基づいて「休業手当」(賃金の60%以上)の支給を受けることができます。この制度は、緊急事態宣言下での休業要請の場合にも適用されると考えるべきです。

② 事業主 「雇用調整助成金(雇調金)」制度があり、事業主は、売上高などが前年同期と比べて1か月で5%以上低下した場合、「休業手当」で支払ったお金の2/3(中小企業では80%)、1人も解雇・雇止めをしなければ75%(中小企業では90%)の助成を受けることができます。パート・アルバイトや非正規労働者への休業手当も助成の対象になります。

事業主は、この制度を利用して解雇や雇止めを回避し雇用を守ることができます。

今後さらに特例措置が拡充されますが、詳細は5月上旬に発表されるとのことです。    https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/kyufukin/pageL07.html

 

【小学校が休校になり子どもの世話のために仕事を休まざるを得ないとき】

事業者(フリーランスを含む)は「小学校休業等対応助成金」制度を利用できるので、労働者(正規・非正規を問わない)は、年次有給休暇とは別に特別の有給休暇が取得可能です。     https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/kyufukin/pageL07_00002.html

 

【生活資金に困ったとき】

新型コロナの影響で収入の減少し、生活に困窮し、日常生活の維持が困難となっている世帯などは、市区町村の社会福祉協議会に申し込んで、「緊急小口資金」や「総合支援資金」の貸付(無利子・保証人なし)を受けることができます。新型コロナの影響による場合には、休業や失業による場合に限られず、また、両方の資金援助を受けることもできます。

http://www.osakafusyakyo.or.jp/sikinbu/20200325.html

 

【家賃が払えず、住宅を失いかねないとき】

離職や自営業の廃業、仕事の激減で大幅な収入減少に陥った場合(フリーランスを含む)、求職活動を行うなどの一定の条件をみたせば「住宅確保給付金」の支給を受けることができます。

https://www.city.osaka.lg.jp/fukushi/page/0000303608.html

 

【感染してしまったとき】

健康保険の傷病手当金を受け取ることができます。また、労働者は、業務中や通勤時の感染であれば労災申請(休業補償など)を検討できます。

 

【現金が支給される場合】

(1)1人10万円の現金給付(特別定額給付金)

【受給の方法】

住民票上の世帯主が受給権者とされ、市区町村から世帯主宛てに「申請書」が郵送されます。その「申請書」に振込口座を記入し口座確認書類・本人確認書類のコピーと一緒に市区町村へ郵送します。マイナンバーカード所持者はオンラインでも申請ができます。     https://www.soumu.go.jp/menu_seisaku/gyoumukanri_sonota/covid-19/kyufukin.html

 

【DV避難者の手続き】

DVから避難して、今年4月27日以前に今の住所に住民票を移すことができていない避難者は、申請すれば、世帯主にではなく自分で子どもさんの分も含めて給付金を受け取ることができます。

その申請期間は4月30日までとされています。それ以降も申請できますが、先に世帯主が受給してしまうまでにできるだけ早く手続きをしなければなりません。

必要な申請は、下記でご確認ください。https://www.soumu.go.jp/menu_seisaku/gyoumukanri_sonota/covid-19/kyufukin.html#dv

 

(2)持続化給付金(中堅・中小企業上限200万円、個人事業主上限100万円)

売り上げが前年同月比で50%以上減少している事業者が支給を受けることができます。フリーランスの方、医療法人、NPO法人、社会福祉法人なども広く対象になります。

https://www.meti.go.jp/covid-19/pdf/kyufukin.pdf

 

【失業してしまった場合】

要件はありますが、雇用保険制度を利用できます。ハローワークへ提出する「離職票」に記載される離職理由が「自己都合」の場合には受給が遅れることになるので「会社都合」と記載してもらえるように注意してください。

 

【公共料金や携帯電話料金、税金や社会保険料の支払いができないとき】

それぞれ支払猶予の制度などがあるので、水道局、契約事業者、年金事務所、税務署などに相談しましょう。

 

【生活の見込みがたたないとき】

一時的な貸付などだけでは生活の見込みが立たないときには、生活保護制度が利用できます。お住いの地域の福祉事務所(区役所の生活保護課など)へ申請します。ある程度の収入があってもそれだけでは最低生活費を下回る場合には利用できます。

 

【お金がなくて病院に行けないとき】

無料または低額で診療を受けることができる無料低額診療事業を行っている病院があるので受診できます。

年金制度の問題点をILOで報告

2020-01-04

日本の年金制度とその問題点をILOで報告してきました 弁護士 喜田崇之

1 はじめに

2019年10月27日~28日、スイス・ジュネーブにあるILO(国際労働機関)事務所に訪問し、マクロ経済スライドを始めとする日本の年金制度の様々な問題点を伝えるとともに、日本の年金水準がILO102号条約の求める水準に到達していないことを伝えに行きました。法的基準専門官のエマニュエル氏とマルコブ氏と面談し、その後、アクトラブ(労働者活動局)で従事する2名の方と面談することができました。私が面談で伝えてきた内容や、面談時の様子をご紹介致します。

2 年金制度の諸問題

日本の年金制度には様々な問題があります。年金の実質的な価値を自動的に削減し続けるマクロ経済スライドがすでに導入され、その他にも 物価スライド制度の例外を設けて年金削減をさらに進める法改正が相次ぎ、いわゆる「老後2000万円足りない」報告書が無視されるということもありました。  また、2019年8月には、年金財政の将来見通しを検証する財政検証が発表されました。そこでは、6つのケースの将来見通しを想定しましたが、いずれのケースでも、老齢基礎年金が削減され続け、約25年後~30年後には、約30%もの削減がなされる見込みであることが明確に示されました。

3 ILO102号条約違反

ILO102号条約は、ごく単純に言えば、日本でいう厚生年金については、30年間保険料を納付した場合には、従前所得の40%以上を保障しなければならないことを求めています。  日本は、5年に一度、ILOに報告文書を提出しています。日本は、60歳まで勤務した夫と専業主婦を標準モデル世帯とし、モデル世帯が30年間の加入で得られる年金額は月額16万5000円である(2012年報告)と算出し、他方で、平均賃金が月額31万5000円なので、年金水準の割合は52.4%であるとしています。

しかし、報告書が前提としている平均賃金は、平均標準所得というものから算出されているもので、ここには労働者の賞与が含まれていません。賞与を含んだ賃金の統計は、毎月勤労統計、賃金センサス等がありますが、これらを利用すると全く違う割合が算出されます。例えば、製造業(従業員数5人以上)の平均賃金は月額42万円です(毎月勤労統計)。そうすると、16万5000円÷42万円は、40%を若干下回ります。そして、上述したマクロ経済スライドが適用され続けることにより、この数字は、どんどん低下することになります。老齢基礎年金が30%削減されることになれれば、年金の所得割合は30%を下回ることになります。

4 面談の様子

エマニュエル氏とマルコブ氏は、私の前述の説明に真摯に耳を傾けて、大きな問題意識を共有し、たくさんの意見交換をすることができました。また、日本で、マクロ経済スライド制度が憲法違反であることの全国的な裁判闘争がなされていること(大阪での裁判は私が弁護団の事務局をしております。)等も含めて大変感銘を受けておられ、大いなる励ましのメッセージも頂戴しました。 その後、アクトラブ(労働者活動局)との面談では、同趣旨の説明を行い、アクトラブの日常的な活動内容、我々の活動内容の意見交換などを行い、今後も連携して、協力体制を構築することを確認することができました。私にとって、初めてのILO訪問で、大変貴重な経験となりました。

« Older Entries

アクセス

地図

大阪市北区西天満4丁目4番13号 三共ビル梅新5階

地下鉄/谷町線・堺筋線 南森町駅
2号出口から 徒歩 約10分

icon詳しくはこちら

弁護士紹介