加給年金額の対象に該当しない旨の行政処分の取消を命じる判決
加給年金額の対象に該当しない旨の行政処分の取消を命じる判決を勝ち取りました 弁護士 喜田 崇之
【制度の説明】
厚生年金受給者が、65歳到達時点で、その方に生計を維持されている配偶者または子がいる場合には、年金額が加算されることになっています。これを加給年金といいます。
生計を維持されている方が「事実婚」の場合にも加給年金が認められますが、社会通念上夫婦の共同生活を成立させる合意及びその実態が認められ、かつ、生計維持関係にあることの立証が必要です。加えて、法律上の婚姻関係が残っているといういわゆる「重婚的内縁関係」の場合には、当該法律婚がその実態を全く失っており形骸化していることの立証が必要です。形骸化しているか否かの判断はやや複雑なのですが、当事者が別居し、経済的な依存関係になく、音信・訪問等の事実が反復して存在していないこと等の事実関係をもとに判断されることになっています。
本件では、重婚的内縁関係の事案で、加給年金の申請をした事案でした。
【事案の概要】
Xさんは、厚生年金を受給するようになり、65歳になった2006年当時法律上の妻(Aさん)がいましたが、すでに別居後10年近く経過しており、離婚を求める調停も行っていました(Aさんが離婚を拒絶したため不成立で終了していました)。他方で、Bさんと事実婚関係になり、すでに同居して約5年が経過していました。
その後、Xさんは、社労士のアドバイスを受け、2017年頃に加給年金制度を知るに至り、Bさんを対象として、加給年金の申請を行いました。
しかし、年金事務所は、2006年の基準時において、XさんにAさんとの婚姻関係が形骸化したとは認められないこと、Bさんとの事実婚状態も認められないこと等を理由として、Bさんを対象とする加給年金不該当処分を下しました。
Xさんは、ある弁護士に依頼して、当該加給年金不該当処分を不服として、審査請求、再審査請求を行いましたが、いずれも認められませんでした。
このような状況のもと、弁護士喜田がXさんの代理人に就任し、2018年5月、大阪地方裁判所に対し、加給年金不該当決定の取消しを求めて行政訴訟を提起しました。
【裁判の進行】
我々は、XさんとAさんの法律上の婚姻関係が形骸化しており、別居期間が長期間続いていることを主張・立証しました。また、Bさんとの間の生活実態について、過去の生活状況を示す様々な証拠を幅広く提出し、長期間にわたって、一般的に見て夫婦としての共同生活をしている実態を立証しました。また、AさんがXさんからの離婚要求を拒絶したり、Aさんが作った借金の支払いをするなどしてきたのですが、上記の基準に照らして、XさんとAさんの法律婚が形骸化している事実を主張・立証してきました。
【判決の内容】
大阪地方裁判所は、2020年3月5日、原告側の主張を認め、Bさんを対象とする加給年金不該当決定処分が違法であると認定し、当該処分の取消を命じました。国は判決に控訴しなかったので、判決は確定しました。
一般論として、行政訴訟の勝訴率は相対的に低く、また、本件のような重婚的内縁関係のケースは要件・争点がやや複雑で多岐にわたることから、特に困難な事案です。本件では、審査請求の段階で負けた要因や、足りなかった主張・立証は何かを分析し、裁判で必要な主張・立証を重ねていくことに成功した結果、勝訴することができました。
【最後に】
行政訴訟は、原則として和解はなく、通常の民事訴訟とは異なる訴訟類型となり、専門性と経験が要求されます。行政処分に関してお困りの方がいらっしゃいましたら、ぜひお気軽にご相談ください。