遊具に挟まれた死亡事故で保育園の責任を認めた事例【判例紹介】
保育園で、3歳児が遊具(うんてい)に首を挟まれ死亡した事故について、設置運営法人の賠償責任を認めた事例(下級審の裁判例)を紹介します。
平成29年(ワ)482 号 損害賠償請求事件 令和2年1月28日 高松地方裁判所判決
http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/235/089235_hanrei.pdf
事案:社会福祉法人が設置運営する保育園で、3歳児が、遊具(うんてい)の上向きV字型開口部に頚部が挟まれる事故に遭って死亡したことにつき、園児の両親が、園長、担任保育士、社会福祉法人に対して、損害賠償を請求した事案です。
判示:事故の原因について、「雲梯の西側には、梯子の横木と頬杖により形成された開口角度44.38度の上向きのV字型開口部があり,本件事故は同開口部で発生した。」「国土交通省は、都市公園における遊具の安全確保に関する指針を策定しているところ、同指針及びその解説では、遊具の構造,施工,維持管理の不備などが物的ハザードとして位置付けられ、遊具に関連する事故として挟み込みが挙げられ、その対策として、頭部、指、身体などを挟み込むような開口部、隙間をなくすことやV字開口部が55度ないし60度未満で上向きとならないようにすることなどが参考として挙げられている」「雲梯は、幼児の身体が挟み込まれる危険性を有する遊具である」と判示した。
責任について、園長には、「就任から事故発生までという12日という短い期間内に、雲梯を注意深く観察し、上向きのV字型開口部に園児の身体が挟み込まれることを予見するのは著しく困難であった」と責任を否定し、担任保育士にも、「雲梯は、客観的には幼児の身体が挟み込まれる危険性を有する遊具ではあるものの、これを担任保育士のような個々の保育士においてまで認識することは著しく困難である」として責任を否定した。
社会福祉法人については、「法人ないし以前の園長は、雲梯に上向きのV字型開口部が生じて以降、雲梯が、園児の身体が挟み込まれる危険性を有するものであることを認識し得たといえ、また、認識すべきであった。そうであるにもかかわらず、雲梯の上向きのV字型開口部を解消することなく本件事故まで放置した点につき、社会福祉法人には組織体として過失がある」として、責任を認めた。
安全基準に違反した遊具(うんてい)を、設置して、幼児の利用に供していた以上、社会福祉法人の損害賠償責任が認められるのは当然です。
現場の責任者というべき園長について、「雲梯の形状からすれば、指針や規準を熟知しない者であっても、より注意深く観察すれば、上部の横木と梯子の横板に幼児の身体が入りうることや頬杖と梯子の横板の間に幼児の頭部が挟み込まれることを予見することは不可能とまではいえず、幼児においては、遊具の正しい用法に従わない遊び方をすることもままあること、体力や知力が発達段階にあり、危機回避能力が未熟であることにも照らすと、園長において、より注意深く観察していれば、雲梯の上向きのV字型開口部に園児の身体が挟み込まれることを予見することは可能であった」として、「遊具の危険性についてより注意深く観察すべき立場」を求めたのは参考になるでしょう。