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司法書士は委任者以外の第三者に対して責任を負うか【判例紹介】

2020-03-13

不動産登記申請の委任を受けた司法書士は、トラブルの際に委任者以外の第三者に対しても、責任を負うか、それはどの程度かに関し、最高裁の判例がありましたので、紹介します。

平成31年(受)6号 損害賠償請求事件 令和2年3月6日  最高裁判所第二小法廷判決  破棄差戻  東京高等裁判所

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/286/089286_hanrei.pdf

事案:東京都内の不動産について,その所有名義人であるAを売主、Bを買主とする売買契約(第1売買契約)、Bを売主、Xを買主とする売買契約(第2売買契約)及びXを売主、Dを買主とする売買契約(第3売買契約)が順次締結され、AからBへの所有権移転登記の申請(前件申請)及びBから中間省略登記の方法によるDへの所有権移転登記の申請(後件申請)が同時にされた。前件申請について地面師が絡んだ不正取引で申請の権限を有しない者による申請であることが判明した後、後件申請は取り下げられた。Xが、後件申請の委任を受けた司法書士であるYに、前件申請がその申請人となるべき者による申請であるか否かの調査をしなかった注意義務違反があると主張して、Yに対し不法行為による損害賠償を求めた事案です。不動産会社Xと司法書士Yとの間には、後件申請について委任契約がありませんから、司法書士は、委任者以外の第三者に対し、責任を負うか問題となりました。

原審は、「司法書士に求められる専門性及び使命にも鑑みると、連件申請により申請される登記のうち後の登記の委任を受けた司法書士は、前の登記の申請の却下事由その他申請のとおりの登記が実現しない相応の可能性を疑わせる事由が明らかになった場合には、前の登記の申請に関する事項も含めて更に調査を行い、登記申請の委任者のみでなく後の登記の実現に重大な利害を有する者に対し、上記事由についての調査結果の説明,当該登記に係る取引の代金決済の中止等の勧告、勧告に応じない場合の辞任の可能性の告知等をすべき注意義務を負っている。」として、第三者であるXに対する責任を認めました。

判示:最高裁は、「司法書士の義務は、委任契約によって定まるものであるから、委任者以外の第三者との関係で同様の判断をすることはできない。」として、委任者に対する責任と第三者に対する責任は異なると示しました。

そのうえで、「司法書士の職務の内容や職責等の公益性と不動産登記制度の目的及び機能に照らすと、登記申請の委任を受けた司法書士は、委任者以外の第三者が当該登記に係る権利の得喪又は移転について重要かつ客観的な利害を有し、このことが当該司法書士に認識可能な場合において、当該第三者が当該司法書士から一定の注意喚起等を受けられるという正当な期待を有しているときは、当該第三者に対しても、上記のような注意喚起を始めとする適切な措置をとるべき義務を負い、これを果たさなければ不法行為法上の責任を問われることがあるというべきである。」と第三者に対する責任がありうると判断ししました。

そして、「これらの義務の存否,あるいはその範囲及び程度を判断するに当たっても、上記に挙げた諸般の事情を考慮することになるが、特に、疑いの程度や、当該第三者の不動産取引に関する知識や経験の程度、当該第三者の利益を保護する他の資格者代理人あるいは不動産仲介業者等の関与の有無及び態様等をも十分に検討し、これら諸般の事情を総合考慮して,当該司法書士の役割の内容や関与の程度等に応じて判断するのが相当である。」と判断基準を示しました。

本件では、Yに第三者に対する司法書士の注意義務違反があるとした原審の判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があるとして差し戻しました。

最高裁が、登記実務に関する職業的専門家である司法書士が委任者以外の第三者に対しても責任を負いうると認め、判断基準を示したことは大きな影響があります。司法書士以外の各分野の職業専門家についても、影響があります。

 

カテゴリー: 民事 

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