入管法改定案の問題点(弁護士松本亜土)
出入国管理及び難民認定法(入管法)改定新法案の問題点
弁護士 松本 亜土
1.はじめに
2023年3月7日、出入国管理及び難民認定法(入管法)を改定する新法案が国会に提出されました。
2021年にも入管法の改定が試みられましたが、人の生命・身体・生活に危険・影響を与えることや、名古屋入管収容施設でスリランカ人女性ウィシュマ・サンダマリさんが死亡した悲劇的な事件を契機として、法案に反対する社会運動が巻き起こり、事実上の廃案となりました。しかし2023年3月、2021年に廃案になった旧法案の骨格を維持した状態の法案が、国会に提出されました。
2.具体的な入管法改定案
入管法改定法案は、多くの批判がなされており、そのうち2点をご紹介したいと思います。
①3回目以上の難民申請者について送還可能にすること。
これまでは、難民認定申請者を強制送還することはできませんでした。しかし、新法案では、3回以上の難民認定申請者を原則として強制送還することになります。
②罰則付きの退去命令制度
新法案では、罰則付きの退去命令制度を新設し、命令に従わない者に対して刑事罰を与えることを可能にします。
3.入管法改定案の問題点
(1)3回目以上の難民申請者について送還可能にする法案
このような措置は、そもそも「その生命または事由が脅威にさらされるおそれのある領域の国境へ追放しまたは送還してはならない」と定める難民の地位に関する条約(難民条約)33条(1)等に表れた「ノンルフールマン原則」に違反することになります。
そして、日本の難民認定率は2021年まで1%未満がほとんどで、日本の難民認定率は国際社会からも非難されています。難民認定率が低く、世界水準で保護されるべき人が保護されていない日本で送還が可能となってしまえば、真の難民の人の命綱を切ることになりかねません。
(2)罰則付きの退去命令制度
命に危険のある人たちは、命の危険のある国に帰らなければ刑事罰を受けることになってしまいます。しかし、そもそも生命・身体が脅かされ、帰国が困難である人は、刑事罰があったとしても命令に従うことはできません。刑事罰を設けたところで、自国に帰ると身の危険がある人にとって、実効性がなく、日本で刑事罰を受けるしかできないのが現状です。
4. 入管法改定の阻止に向けた取り組み
入管法は、多くの人には関係のない法案と思われるかもしれません。しかし、日本にいる約6万人以上の外国籍の人が命の危険を含む重大な影響を受けると言われています。
難民申請者も、私たちと同じように育った故郷があり、守るべき家族、愛すべき家族、パートナー、友人たちがいるものの、自らの生命・身体を守るため、やむなく大切な人を国に残し、あるいは一緒に自国から逃れてきた人たちです。
私は、弁護士として、私たちの国の法律を守るため、そして法案が成立すると重大な影響を受ける外国籍保有者の方に代わり、市民に訴えかける活動や議員会館をまわり、法務委員の議員に直接入管法改定案の問題を訴えかける活動をしています。
これからも、入管法改定案が成立した場合に重大な影響を受けてしまう方がないよう、精一杯尽力していく所存です。
写真は、2023年4月4日に仁比聡平参議院議員(所属会派: 日本共産党)を訪問した際のものです。
また、詳細については、下記URL(仁比聡平参議院議員のTwitter)からご覧いただければと思います。