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障害者の事故と逸失利益(判例紹介)

2025-01-27

障害者の事故と逸失利益                    弁護士 井上直行

最近の下級審判例を紹介します。

事故にあって後遺障害になったり死亡したりの場合、損害として逸失利益(いっしつりえき)の賠償を請求することができます。逸失利益は、被害者が事故にあわなければ、将来得られる可能性がある利益です。逸失利益の計算は、現実に働いている人が事故にあった場合には、被害者本人の事故前の収入を計算の基礎としますが、子どもや専業主婦など働いていない人の場合には、賃金センサスという平均賃金が基礎となるとされています。

今回の裁判は、死亡した聴覚障害のある児童につき逸失利益を障害を理由として減額して算定するか争われました。
2023年2月27日、大阪地方裁判所は、交通事故で死亡した聴覚障害のある児童の逸失利益を全労働者の平均賃金の85%とし、障害を理由に15%減額しました。

児童の両親である原告らは控訴し、2025年1月20日、大阪高等裁判所は、障害のある者も障害のない者と同等に全労働者の平均賃金によって逸失利益を算定すると判決しました。

画期的な判決であり、大阪高裁の判決文を引用すると、

「損害の衡平な分担
生命・身体の価値は本質的に金銭に換算しえない、市場価値を有さない性質を帯びることから、全労働者の平均賃金に基づく基礎年収を認めることが、被害者に「損害」以上の補填を認めることになるということ自体おかしなことである。人身損害の賠償は、法益侵害によって喪失した利益・価値を補填するとの規範的判断に依拠する以上、実損主義と相容れるものでないし、被害者に利得が生じること自体を観念しえない。
損害の衡平な分担の理念に照らしてみても、加害者に過大な負担を強いるものでもなく、不公正な結果が生じることはない。
そのため、人の生命・健康という法益が侵害された場合の損害の算定も、規範的要素を伴うものによるべきことになるが、その考慮に当たって重視されるべき規範的要素は、人間の尊厳の尊重やその本質的価値の平等である。障害の有無といった特定の属性を理由とする減額を認めるような、平等原理と抵触するような評価は到底許されない。」

「経験則と良識の活用
不法行為がなかった状態を想定し、これと実際の状態(不法行為があった状態)との利益状態の差(金銭的な差額)を損害とするという考え方である差額説は、人の生命・健康といった法益が侵害された場合には妥当しない。また、年少者の将来の収入を高度の蓋然性をもって立証することはおよそ不可能であるから、将来の単純な予測ではなく、規範的判断が求められる。
聴覚障害のある者にとってコミュニケーションの手段は音声に代わる手話や筆談、音声認識アプリ等に置き換えられているし、合理的配慮の義務化により、職場がコミュニケーションの方法の構築を支援しなければならないことも要請されている。現状でも、障害者法制の整備により障害のある者の環境は整備され、テクノロジーは著しく進歩しており、社会においても政府が医学モデルと決別する旨宣言するなど、社会の意識識も着実に変化してきており、将来における障害のある者と障害がない者との間の就労可能性や労働能力の差はなくなっていく方向に向かうのは確実である。年少障害者の逸失利益は、今後半世紀にわたって得られたはずの収入を算定するのであるから、本件においても、法と政策、社会の実態や意識の変化、とりわけ聴覚障害者の置かれている状況の変化、さらには、Aの成育歴や今後の可能性等に鑑み、従来の考え方を克服して、障害のある者も障害のない者と同等に平均賃金によって逸失利益を算定する判断を示すべきである。」

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/741/093741_hanrei.pdf

坂本堤弁護士(1956年-1989年)が、弁護士になって(1987年4月)すぐ取り組んだのが、「障害のある者も障害のない者と同等に平均賃金によって逸失利益を算定すべきである」という問題です。学校事故で死亡した障害のある生徒の損害賠償請求訴訟を代理人として提起しました。それから38年!ようやく画期的判決に実を結びました。

 

 

 

カテゴリー: くらし 

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