生活保護法の一部が改悪されました
「生活保護法の一部が改悪されました!!」 弁護士喜田崇之
1 生活保護法の改正
平成25年12月6日、生活保護法の一部を改正する法律案が可決されました(法律の施行は、平成26年7月1日からです。)
生活保護費の切り下げが平成25年8月から始まった(半年毎に合計3回の切り下げを予定)ばかりですが、今回の改正は、生活保護法の運用そのものが変えられ、生活困窮者が必要に応じて生活保護を受給できなくなる危険性があります。以下、改正点のうち、①申請の方法、②扶養義務の強化の問題点を紹介します。
2 申請の方法(改正法24条1項~7項等)
生活保護の申請は、これまで、福祉事務所の窓口で、口頭での申請が可能でした。しかし、今回の改正により、申請書を提出し、かつ厚生労働省令で定める書類を添付しなければならないとされました。
このことにより、例えば、福祉事務所が窓口で申請書を交付しない、添付書類がそろわない限り有効な申請と扱わないとされるケースが懸念されます。
このように、福祉事務所が、申請窓口で違法に申請を受け付けなかったりする事例は「水際作戦」として社会問題となりましたが、今回の改正は、この「水際作戦」が再来するおそれがあります。
DV被害を受けて着の身着のまま逃げてきた方や、自宅を失い通帳等を紛失されてすぐに再発行できない方等、様々な事情で「書類」を用意できない人達もいます。このような人たちにも、きっちりと保護の申請ができるようにしなければなりません。
政府・厚生労働省は、これまでの運用を改めるものではない旨を明らかにしておりますが、実際にどのような運用がなされるのかについては、注意する必要があります。
3 扶養義務の強化(法28条、29条等)
また、扶養義務も強化されました。
具体的には、扶養義務者に対し扶養照会を行い、扶養義務者が扶養できないと回答した場合等、本当に扶養できないのかどうかも含めて、「扶養義務者」の資産・収入等について、官公署に資料の提供や報告を求めることができるようになりました。また、銀行、信託会社、雇用主、その他の関係等に対し、資料の提供や報告を求めることも可能となりました。これらの調査は、現在生活保護を受けている世帯についても同様に行うことが可能となります。
福祉事務所が、これらの資料から、扶養義務者が扶養できる等と判断した場合はどうなるのでしょうか。また、生活困窮に陥る人の中には、家族との関係が悪化している方も少なくありません。そのような方に対し、家族・親族が扶養義務を果たさないからと言って、申請者は保護が受給できない等という運用がなされてはなりません。
また、扶養義務者への過度な調査により、生活困窮者が生活保護の申請をためらうことも懸念されます。扶養義務の名のもとに、違法な運用がなされてはなりません。
4 まとめ
今回の生活保護法の改正は、政府が、社会保障費削減の一環として、生活保護費の切り下げだけでなく、生活保護受給そのものの抑制を狙ったものという他ありません。生活保護費の切り下げや、生活保護受給の抑制をしたところで、貧困がなくなるわけではなく、むしろ新たな問題を生むだけです。そうではなく、生活困窮者に対して必要な支援を行った上で、貧困を生みだす社会構造を変えることこそが、何よりも求められていることではないでしょうか。