派遣・偽装請負に関する取り組み
派遣・偽装請負に関する取り組み 弁護士 河村 学
1 大阪では、団員がその中核を担う民主法律協会の派遣労働研究会において、派遣・偽装請負等を中心とする非正規雇用労働者の権利擁護のための活動を継続的に行ってきた。本稿では、その活動を紹介するとともに、運動のあり方について若干の意見を述べる。
2 大阪派遣労働研究会
派遣労働研究会は、一九八五年の派遣法制定の二年前に法制定に反対する運動を行う組織として発足した。その後、派遣を含む非正規労働者の権利・生活を守る活動を継続的に続け、現在は、弁護士、学者、労働組合幹部、派遣労働者のほか、労働基準監督官やWWNの活動家など多様な分野の方が会員として活動に参加している。定例会は月一回行われているが、常時一〇名前後の参加で研究会がもたれている。
3 研究会の日常活動
派遣労働研究会の活動は、月一回の定例会を軸に行われている。定例会では、派遣・偽装請負にかかる法的問題の検討や、派遣労働者からの相談に対する取り組み、研究会の具体的活動方針について話し合っている。また、メーリングリストでは、情報・意見の交流を行っている。
恒常的な活動としては、月一回の定例会のほか、月一回の電話相談会、メールでの相談に対する回答を行なっている。メール相談については、龍谷大学の脇田教授が開設しているホームページに寄せられたメール相談を研究会員(但しほとんどが弁護士)が分担して回答しているが、ときには月八〇件くらいの相談が寄せられることもあり対応が困難な事態にもなった。現在は、脇田教授のホームページ内に掲示板を立ち上げてもらった関係で、派遣労働者の相談・回答が掲示板を通じて行われる割合が多くなっている。
その他、近時の取組みとしては、年一回の大阪労働局との懇談会を八月に行った。懇談会では、近時問題が大きくなっている中途解約の問題、事前面接や二重派遣、直用労働者の派遣への切替等の問題について取り上げた。
今年の派遣法改定に対しては、法改定に関する意見書を研究会として国会に提出し、また、共産党の推薦で衆議院での参考人としても研究会の会員が出席し意見を述べた。さらに改定法成立後は、付帯決議に基づき定めるべき指針についての意見をまとめ全労連に提出するなどの活動を行った。
今年、全労連が派遣プロジェクトチームを作ったので、その場にも参加させてもらっている。
4 研究会の事件活動
以上のような活動の中で、事件として取り上げる必要が生じた場合には、弁護団を配置して、事件活動を行っている。現在、研究会が取り上げている事件のうち主なものは次のとおりである。
(1)ヨドバシカメラ・パソナ事件。大手家電量販店のヨドバシカメラが、新規店舗の開業に際し、大手派遣会社パソナを通じて、一五七名の労働者の供給を受けたが、就業二日前になって、ヨドバシカメラによりその全員の就労を拒否した事例。両社間では業務委託契約を締結していたとされる(但し契約書は存しない)が、実際は労働者供給であった(派遣という形式をとっていないのは、おそらくは派遣法の一年ルールを潜脱する意図があったため)。労働者の一人が原告となり賃金相当損害金の損害賠償を求めて提訴。裁判において、ヨドバシカメラは、原告の主張自体が失当であると繰り返し、ヨドバシカメラ社長の証人尋問について裁判所が証拠決定したことについても、それでも出頭しないとその場で明言するなど、供給先の間接雇用労働者に対する無責任な意識を露呈する事件である。
(2)日建設計事件。日建設計が直用し働かせていた労働者について、約一〇年間就労後に派遣会社からの派遣という形式をとるようになり、その後も約一〇年間同様に就労を継続させていたが、今年になって何の理由もなく解雇(雇い止め)を行ったという事例。日建設計に対する地位確認・賃金支払を求め提訴。職安法四四条違反で労基局への是正申告も併せて行った。
(3)藤沢薬品・スタッフサービス事件。スタッフサービスから藤沢薬品に派遣された労働者が、就労直後に、薬品により労災にあった事例。藤沢薬品とはすでに相当な額で示談が成立。スタッフサービスは、労働者が労災の申出をした際、「派遣先とたたかうことになる」という理由でその申請に協力せず、かえって退職させて失業保険を受給させた。この点についてスタッフサービスはろくに調査もせず、就業前の安全教育など現実にはできないなどと高言したため、労基局への是正申告を行う。
(4)富士通(子会社)事件。三年間という約束で派遣契約をし派遣就労したが、派遣先が八か月で解雇した事例。当初の契約書をめぐるトラブルで労働者が会社を辞めるといった際は、契約期間は三年であるといって足止めしたにもかかわらず、必要がなくなると契約期間の残期間について何の手当もしないまま解雇した悪質な事例。また、派遣先でのセクハラ行為もあった。賃金相当損害金の支払いを求め提訴。
(5)毎日放送事件。一〇数年にわたり一〇〇%子会社社員として毎日放送の業務に従事していた事例。毎日放送は労働者の採用にも深く関わっていた。毎日放送に対する地位確認・賃金支払を求め提訴。
(6)川重原動機事件。昔の口入れ屋といえるような実体のない請負人に大阪で雇われ、川重原動機が受注している北海道の現場で就労させていた事例。契約期間が一年だったにもかかわらず四か月で解雇したため、残期間の賃金請求を請求。現在、川重原動機と示談交渉中。
(7)下水道事業団・マンパワー事件。派遣就労していた労働者に対して、一年の更新の意向を示したにもかかわらず、結局更新が拒絶された事例。当該労働者が新聞等に事実を公表したこともあって、将来の一年間分の賃金相当額の解決金支払い及び謝罪により示談成立。
(8)他に、事前面接により採用拒否された事例についての損害賠償請求などがある。また、派遣労働研究会でも取り上げ、会員が事件に携わっているものとして、偽装請負等について供給先の使用者責任を追及するJR西日本・大誠電機事件、関西航業事件、朝日放送事件等がある。
5 研究会の今後の取組み
(1) 研究会では、現在、中途解約問題に関するプロジェクトを行おうと考えている。中途解約問題とは、派遣先が派遣労働者がいらなくなったときに、派遣労働契約を中途解約し、派遣元事業主はそれを理由に契約期間が残っているにもかかわらず、派遣労働者をお払い箱にするというものである。プロジェクトの理由は、近時この問題での相談が多く寄せられること、中には、契約書の書換を強制したりする悪質な事例もあること、残期間の賃金額は一から三か月分程度が多く労働者の多くが泣き寝入りしていること、大阪労働局民間需給調整室では中途解約により派遣元が労働者を解雇した場合には休業手当支払の指導はできないと明言していることなど事情があるためである。少なくとも契約期間の残期間については、就労の機会を確保するか、期間全額の賃金を支払うかのいずれかが必要であるとの意識を派遣先・派遣元・労働者すべての理解にする必要がある。
そこで、研究会では、中途解約問題に関する法的な検討を行うとともに、労働者が簡単に利用できる内容証明・是正申告書・訴状のひな形及び解説をホームページにアップすること、悪質な事案に対しては積極的に訴訟を提起していくこととしている。
(2) また、派遣労働者の実態調査についても、ホームページでアップし、当初は簡単な調査から行う予定でいる。それは、派遣元事業者側からの調査、正規の労働組合側からの調査はある程度行われているが、派遣労働者の立場にたって問題をみる視点での調査が圧倒的に不足しているからである。
6 非正規雇用労働者の権利擁護とその組織化について
非正規雇用労働者の問題については、その法制上の問題を指摘したり、その組織化が重要であることを確認したりすることには熱心だが、非正規雇用労働者(特に派遣・偽装請負等の間接雇用労働者)の個々の権利・生活のためのたたかいについてはほとんど目に見える活動が行われていないのが実態である。
その理由はいろいろあると思われるが、他のどのような問題とも同様で、個々の具体的な権利擁護の闘いを積み重ねなければ展望は開けないのであるから、あれこれ大上段に方針やあるべき姿を論ずるのではなく、個々の派遣労働者に接しその悩みを理解する活動を今多くの労働弁護士が行うことが求められていると思う。
また、非正規雇用労働者の組織化についても、対象となる非正規雇用労働者が、直接雇用か間接雇用か、間接雇用といっても派遣か偽装請負か、パートや派遣といっても常用的かそうでないか等々さまざまな雇用形態を含んでいるのであって、それを例えば一律に一般労組に組織するのだとかいう方針が誤りなのは明らかである。この点も実情に応じた経験とその情報交換の中で新しい組織形態を作っていかなければならないのである(アメリカのような同じビルに勤務するという共通項で組織する組合やサイバーユニオンの構想なども一つの形態である。また、派遣については雇用形態を共通項にして人材派遣協会に対置するような横断的組織を作るという形態もあり得ると思う)。
今必要なのは、むしろ個々の非正規労働者の権利・生活のたたかいやその組織化について、さまざまな実践を仕掛け、情報を交流するセンターであると思う。今後、各地で派遣労働研究会のような組織が作られ、全国的な経験交流の場ができるように努力していきたいと思う。