ファミリーマート過労死事件和解成立報告
「~ファミリーマート過労死事件和解成立報告~」
弁護士 喜田 崇之
【はじめに】
大手コンビニエンスストア「ファミリーマート」のある店舗で勤務していたアルバイトの男性従業員(当時62歳)が、極めて過酷な長時間労働の中で過労死した事件で、遺族が㈱ファミリーマートと店舗オーナーを相手に起こした損害賠償請求訴訟が、平成28年12月22日、和解が成立しましたのでご紹介致します。
【事案の概要】
亡くなられた従業員は当時62歳で、亡くなる前6か月間の時間外労働時間は、一月当たり、過労死基準を大きく超える218時間~254時間にも及んでいました。休日もほとんどない状況で、深夜・早朝の労働にも従事していました。亡くなられた従業員は、そのような長時間労働による疲労が蓄積した状態の中、脚立に乗って作業している際に意識を喪失し、転落して床面に頭部を強打しました。すぐに救急車で運ばれましたが、脳死状態になり、しばらくして亡くなられました。
【㈱ファミリーマートを提訴した経緯】
ご承知の通り、コンビニエンスストアの業界では、フランチャイズシステムが導入されています。㈱ファミリーマート本体は店舗オーナーとフランチャイズ契約を締結し、各店舗は、店舗オーナーが経営します。ですので、各店舗で勤務するアルバイト従業員は、㈱ファミリーマート本体ではなく、各店舗オーナーに雇用されることになります。従いまして、㈱ファミリーマートは、原則として、雇用に関する責任を負うことはなく、これまで日本の裁判では、フランチャイジーが雇用する従業員の労働問題について、フランチャイザーの責任を認めた裁判例が一件も見られない状況でした。
しかしながら、フランチャイザーである㈱ファミリーマートは、各店舗に原則として24時間営業を義務付けており、相当数のアルバイト従業員の労働によって初めてファミリーマートビジネスが成り立ち、大きな利益を生んでいます。また、㈱ファミリーマートは、アルバイト従業員の給与計算等の労務管理も行っており、時には各店舗の従業員を指導したり、研修の参加を義務付けたりもしており、店舗従業員との関係がないなどと言えない実態となっています。
そこで遺族は、フランチャイザー本体が何ら責任を負わないことは不合理であると考え、直接雇用責任を負う店舗オーナーだけでなく、㈱ファミリーマートも提訴することにしました。
【和解の意義】
提訴してから約1年半の歳月を経て、最終的に和解が成立しました。亡くなられた従業員が過労死基準を超える労働時間に従事していたことが、㈱ファミリーマート本部に毎月報告されていたにもかかわらず、長時間労働が放置されていたことも裁判の中で判明しました。
㈱ファミリーマートが店舗オーナーの従業員の過労死事件につき和解に応じたこと自体、極めて稀なケースです。そして、この和解は、コンビニチェーン店で働くすべての従業員の過酷な長時間労働を抑制し、コンビニフランチャイズの社会的信頼を高めていく上で大変意義があると思われます。
本件和解は、同年12月30日以降、全国で大きく報道され、㈱ファミリーマートも、NHKの取材に対し「今後も加盟店が労働法規を守るように指導していく。」とコメントしました。各店舗で勤務するアルバイト従業員はもちろんですが、過酷な労働環境に晒されている店舗オーナーも少なくなく、店舗オーナーの働き方そのものも見直されるべきであると考えます。
残念ながら、我が国では、フランチャイズ契約を包括的に規制する法律がありません。本和解をきっかけとして、今後、コンビニフランチャイズ業界で同様の過労死事件(ないし長時間労働問題)が起きないように、社会全体で24時間営業のコンビニチェーン店で働く加盟店を含めた従業員の労働環境が少しでも改善し、包括的なフランチャイズ契約に関する法律の立法化が進めばと考えています。
末筆ですが、亡くなられた従業員の方のご冥福をお祈りいたします。
なお、当該事件は、いわき総合法律事務所の岩城弁護士、稗田弁護士、天王寺法律事務所の瓦井弁護士と弁護団を組んで解決致しました。